eのお気持ち
数学をやっていると、よくこいつに出会います。
\begin{align}
\mathrm{e} = \lim_{x \to 0} \, ( 1 + x ) ^ {\frac{1}{x}}
\end{align}
はじめて出会うのは、おそらく数Ⅲとかでしょうか。自然対数などといったものと一緒に現れるわけです。したがって、このeには「自然対数の底」という呼び名があります。電気素量ではありません。
でもまず、なんでわざわざ新しく定数を定義するのでしょうか。定義するからには、それなりの理由があるわけです。円周率に次ぐ数学定数ですから、このもそれくらいよく出てくるんですね。ここでは、この定数を定義したくなるお気持ちを簡単に話したいと思います。
なぜあの定義式になるんだろう
があると何が良いか、という話なんですが(ダジャレではないです)結論から言うと、導関数の計算を始めとした色々な式が簡単になってくれたりします。
ここではまず指数関数の話からやっていきたいと思います。
\begin{align}
f(x) = a^x
\end{align}
ここで、aは1を除く正の実数の定数です。
このときに、例えばこんな風になってくれたら嬉しいと思いませんか?
\begin{align}
f(x) = f'(x)
\end{align}
こうなってくれたら、とても計算が楽です。
そういうわけで、の導関数をまず定義に従って求めてみます。
\begin{align}
f'(x) &= \lim_{h \to 0} \, \frac{f(x+h) - f(x)}{h} \\
&= \lim_{h \to 0} \, \frac{a^{x+h} - a^x}{h} \\
&= \lim_{h \to 0} \, \frac{a^x ( a^h - 1 )}{h} \\
&= a^x \lim_{h \to 0} \, \frac{a^h - 1}{h}
\end{align}
どうやら、というのがになってくれれば上の条件を満たせるみたいです。ここから、定数に関する方程式が作れます。
\begin{align}
\lim_{h \to 0} \, \frac{a^h - 1}{h} = 1
\end{align}
について解きたいので両辺にhをかけて、
\begin{align}
\lim_{h \to 0} \, (a^h - 1) = \lim_{h \to 0} \, h
\end{align}
を移項して、
\begin{align}
\lim_{h \to 0} \, a^h = \lim_{h \to 0} \, (1 + h)
\end{align}
もうゴールが見えましたね。ここで両辺にを乗じれば、
\begin{align}
a = \lim_{h \to 0} \, (1 + h) ^ {\frac{1}{h}}
\end{align}
出ました!!がこういう値のとき、指数関数は微分しても形が変わらないのです。だから、こういうをとして定めておくと役に立ってくれるわけですね。
余談ですが、指数関数を複素数の世界へ拡張した複素指数関数の定義として
\begin{align}
f'(z) &= f(z) \\
f'(0) &= 1
\end{align}
を満たす正則関数の解、というものが使われる場合があります。
上の性質は解析接続をするときに効いてくるわけです。
対数関数からアプローチしてみる
上ではを定義するのに指数関数を用いましたが、その逆関数である対数関数からも定義式を導出できます。
\begin{align}
g(x) = \log_{a} x
\end{align}
同じく、は1を除く正の実数の定数とします。
微分してみます。
\begin{align}
g'(x) &= \lim_{h \to 0} \, \frac{g(x+h) - g(x)}{h} \\
&= \lim_{h \to 0} \, \frac{\log_{a}(x+h) - \log_{a}(x)}{h} \\
&= \lim_{h \to 0} \, \frac{1}{h} \log_{a}(\frac{x+h}{x}) \\
&= \lim_{h \to 0} \, \log_{a}\{(\frac{x+h}{x}) ^ \frac{1}{h}\} \\
&= \lim_{h \to 0} \, \log_{a}\{(1 + \frac{h}{x}) ^ \frac{1}{h}\}
\end{align}
ここで、と置くととなるので、
\begin{align}
g'(x) &= \lim_{u \to 0} \, \log_{a}\{(1 + u) ^ \frac{1}{ux}\} \\
&= \frac{1}{x} \lim_{u \to 0} \, \log_{a}\{(1 + u) ^ \frac{1}{u}\}
\end{align}
がになってくれると都合が良さそうです。対数関数の値がとなるのは底と真数が等しいときなので、
\begin{align}
a = \lim_{u \to 0} \, (1 + u) ^ \frac{1}{u}
\end{align}
となり、aを求めることができました。
eの性質
ここから先は少し難しい話です。
さっきまでは、が具体的にどれくらいの大きさの値なのかという話を全くしていませんでした。なので、の大きさを評価していきたいと思います。
指数関数を考えます。
この関数をマクローリン展開することにより、以下を得ます。が全部になってくれるので、とても簡単です。
\begin{align}
\mathrm{e}^x = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{x^n}{n!} = 1 + x + \frac{x^2}{2!} + \frac{x^3}{3!} + \cdots
\end{align}
ここで、とすれば新しいの表示が得られます。
\begin{align}
\mathrm{e} = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{n!} = 1 + 1 + \frac{1}{2!} + \frac{1}{3!} + \cdots
\end{align}
ここから、大きさの評価ができます。
まず下からの評価ですが、明らかに以下が成り立つことがわかりますね。
\begin{align}
\mathrm{e} > 2
\end{align}
次に上からの評価をするために以下のような級数を考えます。
\begin{align}
\sum_{m=1}^{\infty} \frac{1}{2^m} = \frac{1}{2} + \frac{1}{4} + \frac{1}{8} + \cdots
\end{align}
この級数はに収束します。この級数と上のの表示式の第三項以降を比較すると、
\begin{align}
\frac{1}{2!} + \frac{1}{3!} + \frac{1}{4!} + \cdots < \frac{1}{2} + \frac{1}{4} + \frac{1}{8} + \cdots = 1
\end{align}
となるので、以下が示せました。
\begin{align}
2 < \mathrm{e} < 3
\end{align}
実際に小数で表してみると、次のようになります。
\begin{align}
\mathrm{e} = 2.71828 \ldots
\end{align}
また、は無理数でありかつ超越数*1であることが分かっています。
が無理数であること、超越数であることの証明は上の大きさの評価なんかよりもさらに難しいものですが、一見の価値ありです。
では、お疲れ様でした。