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日々の数学やプログラミングに関係する話。

ベクトルって便利だね、って話

高校二年生の数学Bなどで勉強するベクトルですが、意外とこいつを上手く使ってやることで証明がスマートになったり、あるいはほぼ自明レベルまで落とし込めたりします。

そんなわけでいくつかベクトルを使うと簡単に示せる定理などの紹介です。
数が少ないので随時加筆していきたいなーと思います。

三角形の余弦定理

任意の三角形ABCにおいて、Aの対辺をaというように名前をつけてやるとこんな関係があるのでした。三角比のときに学ぶ、三平方の定理の上位互換バージョンです。

\begin{align}
a^2 &= b^2 + c^2 - 2 b c \cdot \cos A \\
b^2 &= c^2 + a^2 - 2 c a \cdot \cos B \\
c^2 &= a^2 + c^2 - 2 a c \cdot \cos C
\end{align}

まずこの余弦定理に、ベクトルによる証明を与えてみましょう。

証明

どの辺を証明に使っても一般性は失われないので、ここでは\overrightarrow{AB}\overrightarrow{AC}を使って\| \overrightarrow{BC} \|を求めます。

\begin{align}
\| \overrightarrow{BC} \| ^2 &= \| \overrightarrow{AB} - \overrightarrow{AC} \| ^2 \\
&= \left( \overrightarrow{AB} - \overrightarrow{AC} \right) \cdot \left( \overrightarrow{AB} - \overrightarrow{AC} \right) \\
&= \| \overrightarrow{AB} \| ^2 + \| \overrightarrow{AC} \| ^2 - 2 \left( \overrightarrow{AB} \cdot \overrightarrow{AC} \right) \\
&= \| \overrightarrow{AB} \| ^2 + \| \overrightarrow{AC} \| ^2 - 2 \| \overrightarrow{AB} \| \| \overrightarrow{AC} \| \cos A
\end{align}

座標などを使わなくてもいいのでいいですね。

ひし形の対角線が直交すること

あるひし形ABCDの対角線は、例えば\overrightarrow{AB}\overrightarrow{AC}を用いてそれぞれ\overrightarrow{AB} + \overrightarrow{AD}\overrightarrow{AB} - \overrightarrow{AD}と書けます。

大事なのは、ひし形の定義から\|\overrightarrow{AB}\| = \|\overrightarrow{AD}\|であることです。

ここで対角線のベクトルの内積をとってやると、

\begin{align}
\left( \overrightarrow{AB} + \overrightarrow{AD} \right) \cdot \left( \overrightarrow{AB} - \overrightarrow{AD} \right) &= \| \overrightarrow{AB} \| ^2 - \| \overrightarrow{AD} \| ^2 \\
&= 0
\end{align}

となるので、ほぼ自動的に対角線が直交することを示せます。

座標平面上の三角形の面積公式

こちらに既に独立した記事があるので、ぜひご参照ください。

 

mikan-alpha.hatenablog.com

Cauchy-Schwarzの不等式

ベクトルを習うことによる恩恵がよく分かる例として、これを話したいと思います。

2つのベクトルを \boldsymbol{a} = (a_1, a_2, \cdots , a_n)\boldsymbol{b} = (b_1, b_2, \cdots , b_n) と置くと以下の不等式が成り立ちます。これも高校でやるやつですね。そして初学者には覚えにくい。

\begin{align}
\left( \sum _ { i = 1 } ^ { n } a _ { i } ^ { 2 } \right) \left( \sum _ { i = 1 } ^ { n } b _ { i } ^ { 2 } \right) \geq \left( \sum _ { i = 1 } ^ { n } a _ { i } b _ { i } \right) ^ { 2 }
\end{align}

でも、一度ベクトルで証明をしてみれば分かりますが非常に単純な発想からくる不等式であることがわかります。

証明

2つのベクトル\boldsymbol{a}\boldsymbol{b}内積を上から評価することを考えます。内積の定義から、以下のように評価ができます。

\begin{align}
\| \boldsymbol{a} \| \| \boldsymbol{b} \| \geq \boldsymbol{a} \cdot \boldsymbol{b} \geq - \| \boldsymbol{a} \| \| \boldsymbol{b} \|
\end{align}

左の等号が成立するのは(幾何ベクトルの)内積の定義式における\cos \thetaが1になるときで、逆に右の等号が成立するのは\cos \thetaが-1になるときです。
ここで左側の不等式を取り出して両辺を2乗してやればCauchy-Schwarzの不等式そのものです。

また、この証明によって等号成立条件はベクトル\boldsymbol{a}\boldsymbol{b}が平行であること、と分かります。