負の数にも指数を乗っけてみようじゃないか
高校の数学Ⅱでは、指数関数と対数関数というものを習います。
\begin{align}
y = a^x
\end{align}
こんな感じのやつですね。対数関数はこの関数の逆関数なのでした。
ただし条件があって、 は1ではない正の実数という仮定が必要です。
もし が1だとしたら、そもそも関数として面白くないし、なにより指数関数の大事な性質である実数全体から正の実数への全単射というものがまるっと抜け落ちてしまいます。またもし負の数ならば、連続性といったものなどが崩壊してしまうので、こういう条件をつけていたと思います。
しかしながら、形式的には底を負の実数とする指数関数も考えることができるわけです。というわけで、今回は複素関数の力を借りて負の数の実数乗、という数について考えたいと思います。
高校数学の壁を壊す
見出しに特に深い意味はないです。とりあえず指数関数を扱いやすい形に変形しましょう。
\begin{align}
y = \left( -a \right)^x
\end{align}
ここで を正の実数としておくと、この関数は負の実数を底とする指数関数になります。この関数を、底が になるように変形します。
\begin{align}
\left( -a \right)^x = e ^{x \log (-a)}
\end{align}
さらに、対数関数の性質から はさらに分解することができて、
\begin{align}
e ^{x \log (-a)} &= e ^{x \left( \log (a) + \log (-1) \right)} \\
&= e ^{x \log (a) } \cdot e ^{x \log (-1)} \\
&= a^x \cdot e ^{x \log (-1)}
\end{align}
こうなるはずです。二つの指数関数の積になりました。
ですが、一つ困ったことが起きてしまいました。一体、 の自然対数ってなんでしょうか。残念ながら、高校範囲の数学ではこの問いに答えることができません。対数関数の真数は正でなければいけなかったからです。実数の世界だけで関数を扱っていては、手詰まりというわけです。
さて、ここからは複素関数の力を借りることになります。
一般に、 でない任意の複素数 は、次の形で一意に表すことができます。
\begin{align}
z = r e^{i \theta} = r \left( \cos \theta + i \sin \theta \right)
\end{align}
極座標というやつですね。ここで、 は の絶対値(原点からの距離)、 は の偏角でした。(偏角は ずらしても同じ点を指してしまうため普通は一意には定まりませんが、この記事では とします)
極座標を使うと、任意の複素数の自然対数というものを考えることができます。
上の式で各辺の対数を取ってやることで、以下を得ます。
\begin{align}
\log z = \log \left( r e^{i \theta} \right) = \log r + i \theta
\end{align}
これが、複素関数の世界における対数関数、複素対数関数です*1。
もし が正の実数ならば、第二項が0になって消えるのでちゃんと今までの対数関数の拡張になっていることが分かります。
今は としているので、これを極座標で表せば の自然対数が求まりますね!
明らかに絶対値は1で、また偏角は になるので(0ではないので注意)、
\begin{align}
\log (-1) = \log 1 + i \pi = i \pi
\end{align}
となります。
さて、これをもとの式に戻しましょう。
\begin{align}
\left( -a \right)^x = a^x \cdot e ^{x \log (-1)}
\end{align}
ここまで計算していたので、実際に の値を代入してやります。
\begin{align}
\left( -a \right)^x = a^x \cdot e ^{i \pi x}
\end{align}
というわけで、負の実数 を底にもつような指数関数はこのように変形できます。都合がいいことに、極座標の形になっていますね。
まとめると、「 を 乗すると、絶対値が で偏角が であるような複素数になる」ということです。
これだけで、 という値が実軸上に現れるのは が整数のときだけで、逆にそれ以外の場合は実数に成りえないことが分かったりします。
おまけ
底の変換公式を使うと自然対数ではない任意の正の実数を底とする対数関数の真数を負の実数に拡張できます。
\begin{align}
\log_{2} (-8)
\end{align}
これを考えてみます。
底の変換公式より、次が成り立ちます。()
\begin{align}
\log_{2} (-8) = \frac{\log (-8)}{\log 2} = \frac{3 \log 2 + \log (-1)}{\log 2} = 3 + \frac{(2m + 1) \pi}{\log 2} i
\end{align}
*1:先程もいったように、一般にこの関数は多価関数です。