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日々の数学やプログラミングに関係する話。

ラマヌジャンの円周率公式を証明する #5

第五回です。お久しぶりです。

更新滞りすぎ感があったのでちょっとだけ書いておきます。

3. 等価(equivalent)な格子とKleinの絶対不変量 J

この章では、互いに回転・拡大縮小の関係にある等価(equivalent)な格子について取り扱う。等価な格子は、等しいKleinの絶対不変量 J の値を持つ。

定義 3.1.

2つの格子 L, L'等価(equivalent)であるとは、一方の格子がもう一方の格子を回転あるいは拡大・縮小することで得られることである。すなわち、ある a \in \mathbb{C} が存在して、L' = a \cdot L となることである。

注意 3.2.

任意の格子 L の楕円関数 f(z) から、格子 L' = a \cdot L の楕円関数 g(z) = f(\frac{z}{a}) が得られ、逆もまた真である。これが、LL' を等価と呼ぶ所以である。

命題 3.3.

それぞれの格子 L = \mathbb{Z} \omega_1 + \mathbb{Z} \omega_2 に対して、等価な格子 L_{\tau} = \mathbb{Z} + \mathbb{Z} \tau が存在する。ただし、\tau は上半平面 \mathbb{H} 上の複素数である。(i.e. \operatorname{Im}(\tau) > 0

証明

a = \frac{1}{\omega_1} とおくと、L' = a \cdot L=\mathbb{Z}+\mathbb{Z} \cdot \frac{\omega_{2}}{\omega_{1}} を得る。\frac{\omega_{2}}{\omega_{1}} の虚部が正ならば、これを \tau と置けばよい。\frac{\omega_{2}}{\omega_{1}} の虚部が負ならば、\tau = - \frac{\omega_{2}}{\omega_{1}} とすればよい(これは基本周期が異なるのみの等しい格子である)。\operatorname{Im}(\frac{\omega_{2}}{\omega_{1}}) = 0 となる場合はありえない。なぜならば、基本周期の比が実数ならば L は格子になりえないからである(定義1.1参照)。

定義 3.4.

\tau_1 \in \mathbb{H} と \tau_2 \in \mathbb{H} が等価であるとは、格子 L_{\tau_1} と L_{\tau_2} が等価であることである。例えば、\tau と \tau + 1 は等価となる。それだけでなく、\tau と - \frac{1}{\tau} も等価である。

定義 3.5.

ある格子 L \subset C があるとき、g_2(L) と g_3(L) の定義を用いて、判別式 \Delta とKleinの絶対不変量 J を定義する。

\begin{align}
\Delta(L) &:= g_2^3(L) - 27 g_3^2(L) \\
J(L) &:= \frac{g_2^3(L)}{g_2^3(L) - 27 g_3^2(L)}
\end{align}

注意 3.6.

L_{\tau} = \mathbb{Z} + \mathbb{Z} \tau の形の格子があったとき、以降 g_2(L_{\tau}) を g_2(\tau) のように記述する。同様に、g_3(\tau), G_k(\tau), \Delta(\tau), J(\tau) と記述する。