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日々の数学やプログラミングに関係する話。

ラマヌジャンの円周率公式を証明する #2

昨日の続きです。
以下常体になります。

 

mikan-alpha.hatenablog.com

 

1. 楕円関数(Elliptic Functions)

この章では、Weierstraßの楕円関数についての用語と命題を取り扱う。

定義 1.1.

\mathbb{R} 上線形独立な複素数の組 (\omega_1, \omega_2) について、

\begin{align}
L = \mathbb{Z} \omega_{1}+\mathbb{Z} \omega_{2}=\left\{m \omega_{1}+n \omega_{2} \, | \, m, n \in \mathbb{Z}\right\} \subset \mathbb{C}
\end{align}

を、格子(Lattice)と呼ぶ。

\omega_1 と \omega_2 は、格子の基本単位(basic periods)と呼ばれる。

定義 1.2.

楕円関数とは、有理型の関数 f: \mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \cup\{\infty\} であって、以下の性質を持つものである。

\begin{align}
f(z+\omega)=f(z) \quad \text { for all } \omega \in L \text { and } z \in \mathbb{C}
\end{align}

有理型とは、f が真性特異点を持たず、かつ f の極の集合は集積点を持たず*1、かつ f は極を除いて正則であることである。

定義 1.3.

すべての格子 L は、複素数に対して合同の関係をつくる。

z_1 \in \mathbb{C} と z_2 \in \mathbb{C}L の下で合同であるとは、z_1 - z_2 \in L が成立すること(と同値)である。

定義 1.4.

基本領域(fundamental parallelogram)\mathcal{P} とその閉包 \overline{\mathcal{P}} は以下のように定められる。

\begin{align}
\mathcal{P}=\left\{s \omega_{1}+t \omega_{2} \, | \, 0 \leq s, t<1\right\} \quad \text { and } \quad \overline{\mathcal{P}}=\left\{s \omega_{1}+t \omega_{2} \, | \, 0 \leq s, t \leq 1\right\}
\end{align}

\omega_{1} と \omega_2\mathbb{R} 上線形独立であるから、以下が成立する。

全ての z \in \mathbb{C} について、法 L の下 z と合同であるような z' \in \mathcal{P} がただ一つ存在する*2

命題 1.5. Liouvilleの定理

全ての有界な解析関数 \mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} は定数である。

証明

任意の z \in \mathbb{C} に対して、f'(z) = 0 を示せば良い。

Cauchyの積分公式を一度微分することで、任意の正の数 r について以下を得る。

\begin{align}
\left|f^{\prime}(z)\right|=\left|\frac{1}{2 \pi i} \oint_{|\zeta-z|=r} \frac{f(\zeta)}{(\zeta-z)^{2}} d \zeta\right| \leq \frac{1}{2 \pi} \cdot \frac{C}{r^{2}} \cdot 2 \pi r=\frac{C}{r}
\end{align}

ここで、有界であるという仮定 |f(\zeta)| \leq C と、円周の長さを用いた。

途中の式をもう少し書き下すと、

\begin{align}
\left|\frac{1}{2 \pi i} \oint_{|\zeta-z|=r} \frac{f(\zeta)}{(\zeta-z)^{2}} d \zeta\right| \leq \frac{1}{2 \pi } \left| \oint_{|\zeta-z|=r} \frac{C}{(\zeta-z)^{2}} d \zeta\right|
\end{align}

ここで、被積分関数の分母 (\zeta-z)^{2} は、|\zeta-z|^{2} = r^2 に等しいため、元の不等式となる。

上の議論において、r \to \infty とすることで f'(z) = 0 を得る。

したがって、f は定数関数である。

命題 1.6. Liouvilleの定理 1

全ての極を持たない楕円関数は定数である。

証明

全ての基本周期を \omega_1 と \omega_2 とする楕円関数 f は、基本領域 \mathcal{P} 上の全ての値をとる。しかし、その閉包 \overline{\mathcal{P}} は閉じていてかつ有界である。f が極を持たないため、|f| は連続でありかつ \overline{\mathcal{P}} に最大値を持たなければならない。しかし一方で、その周期性から f複素数平面全体で有界となる。命題1.5より、f は定数関数となる。

命題 1.7. Liouvilleの定理 2

全ての楕円関数は、(法 L の下で)高々有限個の極を持ちその留数の和は0である。

証明

楕円関数の任意の極について、等しい(対応する)極が基本領域 \mathcal{P} 上に存在する。楕円関数の極の集合は離散的であるから、基本領域の閉包 \overline{\mathcal{P}} には高々有限個の極が存在する(\overline{\mathcal{P}} はコンパクトである)。

(ここから先はよく理解できてません……)

命題 1.8. Liouvilleの定理 3

全ての定数でない楕円関数 f は、重複度込みで法 L の下同じ数の零点と極を持つ。

証明

(これもいまいち理解できてない気がするので一旦省略します)

定義 1.9.

格子 L のWeierstraßの \sigma-関数は、以下のように定義される。

\begin{align} \sigma(z ; L):=z \cdot \prod_{\omega \in L \atop \omega \neq 0}\left\{\left(1-\frac{z}{\omega}\right) \cdot \exp \left(\frac{z}{\omega}+\frac{1}{2}\left(\frac{z}{\omega}\right)^{2}\right)\right\} \end{align}

この関数の詳しい解析は第4章にて行われる。

注意 1.10.

上記の無限積は、指数関数の因子によって絶対収束する。また、\sigma(z ; L) の零点はちょうど格子 L の点であって、その位数は1である。それにも関わらず、\sigma-関数は二重周期性を持たない

定義 1.11.

格子 L のWeierstraßの \zeta-関数は、\sigma-関数の対数微分として定義される。

\begin{align} \begin{aligned} \zeta(z ; L) :=\frac{d}{d z} \ln \sigma(z ; L)=\frac{d}{d z}(\ln z)+\sum_{\omega \in L} \frac{d}{d z}\left\{\ln \left(1-\frac{z}{\omega}\right)+\frac{z}{\omega}+\frac{1}{2}\left(\frac{z}{\omega}\right)^{2}\right\} \\ =\frac{1}{z}+\sum_{\omega \in L \atop \omega \neq 0}\left(\frac{1}{z-\omega}+\frac{1}{\omega}+\frac{z}{\omega^{2}}\right) \end{aligned} \end{align}

この関数の詳しい解析は第2章にて行われる。

定義 1.12.

Weierstraßの \wp-関数は、\zeta-関数の微分の-1倍である。

\begin{align}
\wp(z ; L):=-\zeta^{\prime}(z ; L)=\frac{1}{z^{2}}+\sum_{\omega \in L \atop \omega \neq 0}\left(\frac{1}{(z-\omega)^{2}}-\frac{1}{\omega^{2}}\right)
\end{align}

注意 1.13.

Weierstraßの \wp-関数の微分は以下のようになる。

\begin{align}
\wp^{\prime}(z ; L)=\sum_{\omega \in L} \frac{-2}{(z-\omega)^{3}}
\end{align}

次回予告?

今回はそこそこキリがいいのでここまでとしますが、第一章はまだまだ続きます。

次回は今回新しく出てきた \wp-関数についてもっと深く扱っていきます。

先は長い……。

*1:おそらく集積特異点が無いと言うことだと思います。

*2:ベクトルの分解です。