あるふぁのらくがき帳。

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ABC予想とFermatの最終定理

この記事は、「日曜数学 Advent Calendar 2019」13日目の記事です。

adventar.org

 

「数学の問題は、足し算と掛け算が絡むと途端に難解になる。」

 

日曜数学のアドベントカレンダーには参加しようと思ってみたものの、さて何を書こうかと思っていたのですが、本記事ではタイトルの通りABC予想Fermatの最終定理のちょっとした相関の話を書こうと思います。

(他にはj-function j(\tau) の値が立方数になるときの条件の証明とかも考えたのですが、これは結構長くなりそうだったのでまた別の機会に記事にしたいですね。*1

話のレベルとしては頑張れば中学生くらいでも十分に理解できる感じのものなので、数学小話的な風に読んでいただけると良いと思います。

そもそもABC予想とFermatの最終定理って何だっけ

ABC予想、と言うとあまり馴染みがない人もいるかと思います。Fermatの最終定理も名前こそ有名ですが、今一度それぞれの内容の解説をしましょう。

Fermatの最終定理とは

フェルマーの最終定理 - Wikipedia

Fermatの最終定理とは、自然数 n \geq 3 に対して以下のような関係式の成り立つ3つの自然数の組 (x, y, z) は存在しない、という主張です。

\begin{align}
x^n + y^n = z^n
\end{align}

主張自体はとても単純な問題ですが、Fermatによって提起された後に数学者たちを300年以上の長きに渡って悩ませ続ける問題となりました。

本筋では無いですが、この定理の証明に主に用いられるのは、因数分解の発想です。
ただし因数分解といっても、中学高校でよくやるような(有理)整数環 \mathbb{Z} の範囲での因数分解はありません。x^n-y^n因数分解は高校範囲ですが、+バージョンはやらなかったと思います。

というのも、+バージョンになると因数分解に特殊な工夫が必要になるためです。
\mathbb{Z} の代わりに、代数体*2(特に円分体)という少し変わった範囲で因数分解すると、一部の n では素因数分解の一意性のようなものが成立し、証明を行うことができます。

ここで、「一部の」n と表現したのは、ほとんどの整数の場合でこのままだとうまくいかない、ということなのですが……この話を続けるとかなり長くなってしまいますから、残りは各自で調べていただくことにさせていただきます。(イデアルやら、楕円曲線やら、難しいです)

まあともかく、数学者を悩ませた問題であり続け、同時に数学の発展に寄与してきた問題でもあるのです。

ABC予想とは

一方のABC予想とは、数論における1つの予想です。予想というからには、まだ解かれていないということです。

 

2020/04/03追記:
望月教授による論文が正しいと認められ、ABC予想が正しいことが示されました!!!!!

 

ABC予想 - Wikipedia

ABC予想の主張について、解説します。

まず、任意の正整数 n に対して、相異なる素因数の積を n の根基(radical)と呼ぶことにし、これを \operatorname{rad}(n) と書きます。
以下に例を示します。

\begin{align}
\operatorname{rad}(16) &= \operatorname{rad}(2^4) = \operatorname{rad}(2) = 2, \\
\operatorname{rad}(17) &= 17, \\
\operatorname{rad}(18) &= \operatorname{rad}(2 \cdot 3^2) = 2 \cdot 3 = 6, \\
\operatorname{rad}(1000000) &= \operatorname{rad}(2^6 \cdot 5^6) = 2 \cdot 5 = 10.
\end{align}

要は、素因数分解した結果の指数部分を全部無視したものをかけ合わせればいいです。

最後の例のように、大きな数の根基を考えても必ずしも大きい値になるとは限りません。

 

さて、正整数 a,b,c が、互いに素であって a+b=c を満たすならば、ほとんどの場合c < \operatorname{rad}(abc) が成り立ちます。ABC予想が指摘するのは、この「ほとんどの場合」に属さない、例外の方です。

ABC conjecture. 任意の正の実数 \varepsilon に対し、互いに素な正整数の組 (a,b,c) であって、a+b=c を満たしかつ以下を満たすようなものは高々有限個しか存在しない。

\begin{align}
c > \operatorname{rad}(abc)^{1+\varepsilon}
\end{align}

なぜ累乗するのかと言うと、単に \varepsilon = 0 である場合を考えると成立する正整数の組が無限個存在するからです。

この予想にはいくつか同値な言い換えがあります。

ABC conjecture II. 任意の正の実数 \varepsilon に対し、ある定数 K_{\varepsilon} が存在して、全ての互いに素な正整数の組 (a,b,c)a+b=c であるようなものに対して以下が成り立つ。

\begin{align}
c < K_{\varepsilon} \cdot \operatorname{rad}(abc)^{1+\varepsilon}
\end{align}

こちらは最初に上げた書き方と少し視点が違って、根基を 1+\varepsilon 乗したものを何倍かしてあげれば反例は無くなるよ、という主張です(何倍するかの値 K_{\varepsilon}\varepsilon に依った定数です)。

 

3つ目の言い換えには、3つ組 (a,b,c)質(quality)q(a,b,c) という概念が含まれます。これは以下のように定義されるものです。

\begin{align}
q(a,b,c) = \frac{\log(c)}{\log(\operatorname{rad}(abc))}
\end{align}

数学に慣れている人ならば、少し考えると q(a,b,c)1 の大小を比較すればABC予想に結びつくことが分かるかもしれません。
これを用いてABC予想は以下のように同値な命題へ書き換えることができます。

ABC conjecture III. 任意の正の実数 \varepsilon に対し、互いに素な正整数の組 (a,b,c) であって、a+b=c を満たしかつ q(a,b,c) > 1+\varepsilon を満たすようなものは高々有限個しか存在しない。

 

ちなみに、上でABC予想はまだ解かれていない、と書きました。実際まだ完璧な証明が与えられていないため正しいのですが、一方で多くの数学者がABC予想を証明しようと試みています。
その試みの中でも特に有名なのが、京都大学数理解析研究所望月教授による論文でしょう。彼は論文の中で自らが築いた宇宙際Teichmuller(IUT)理論と呼ばれる理論を駆使して、ABC予想の証明を試みています。しかしながらその内容はとても難解で、時折「未来(異世界)から来た論文」とも称されます。
ちょうど今年、加藤文元先生がIUT理論に関する、『宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃』という本を出版なさいました。内容は易しく書かれているそうなので、興味がある方はぜひ読んでみるといいかもしれません。

これもまた余談ですが、IUT理論によってABC予想を示す過程でRiemannゼータ関数との関連も見つかったと言われたりもしています。

この2つの関係?

さて、ここまでFermatの最終定理とABC予想の概略を解説してきました。

ここからが、今回の本題になります。

ABC予想Wikipediaを読むと、次のようなことが書いてあります(要約)。

(Effective版)ABC予想が真であるとき、n \geq 6 のFermatの最終定理はこれに従い直ちに示される。

なんと、ABC予想からFermatの最終定理は示せるのですね!

これを初めて知ったときは「マジか!!??」となりました。

というわけで、以降は(強い)ABC予想の仮定の下Fermatの最終定理を示したいと思います。

証明

証明に用いる道具は、上で紹介したABC予想の同値な書き換えのうち、3つめです。

全ての質の集合を考えたとき、その上極限(lim sup)が1となる、というのがABC予想の主張です。ここで、少し弱い主張としてその上界が2であるとします。(記事下部に訂正有り)

すなわち、全ての互いに素な正整数の組 (a,b,c)a+b=c であるものに対して、以下を仮定します。(強いABC予想

\begin{align}
c < \operatorname{rad}(abc)^2
\end{align}

 

ある互いに素な正整数の組 (x,y,z) が存在して、自然数 n \geq 3 に対し x^n+y^n=z^n を満たしているとします。仮定より、

\begin{align}
z^n < \operatorname{rad}(x^n y^n z^n)^2
\end{align}

一般に、整数 k に対して \operatorname{rad}(k^n) = \operatorname{rad}(k) \leq k となるため、

\begin{align}
z^n < \operatorname{rad}(x^n y^n z^n)^2 \leq (xyz)^2 < (z^3)^2 = z^6
\end{align}

したがって、以下を得ます。

\begin{align}
z^n < z^6
\end{align}

仮定より z > 1 なので、3 \leq n < 6 が分かりました。
従って、n \geq 6 の場合のFermatの最終定理に解が存在しないことが言えます。

残りは n=3,4,5 の場合ですが、それぞれの場合についてFermat、Eulerらが個別に証明を与えているため、以上でFermatの最終定理は解決となります。

 

とっても簡潔ですね!

ABC予想は、これ以外にも多くの結果を含んでいます。詳しくは上に載せたWikipedia等を参照していただくといいと思います。

今回は、数論における2つの大きな命題を取り扱いました。一見違う毛色に見える問題が絡み合っているのは面白いですね!他にも、これ面白い、というのがあったらぜひコメント等で教えていただけると嬉しいです。

それでは、良いお年を!

証明の訂正

Twitterにてせきゅーんさんに誤りを指摘していただいたので、仮定の部分を訂正します。

https://twitter.com/integers_blog/status/1205446579412328448

証明を行うためには、abc conjecture IIの言い方でいうと \varepsilon = 1 のとき K_{\varepsilon} = 1 という条件が必要なようです。ここではこれを強いABC予想と呼ぶことにします(高々有限個の例外というのが0個である必要があるため)。

*1:『Primes of the form x^2 + ny^2』という本に証明があるらしいです。

*2:有理数体になんらかの代数的数を添加したもの