項別微分っていつできる?
自分用の備忘録も兼ねて、項別微分について書こうと思います。
ある関数列 について、 という関数を考えます。
この関数を微分したいと思ったとき、普通は(微分の線形性的に)項別に微分しようとしてしまうと思うのですが、実はこれができないケースが存在します。
(これは微分の定義にも極限が絡んでいるために、極限の交換が発生するためです)
具体的には、以下のような定理が知られています。
定理 1.
区間 上で微分可能でかつその導関数が連続である( 級)関数列 に対して、
(i) が 上 に各点収束
(ii) が 上 に一様収束
の2つを満たすとき、 もまた 上の各点で連続で微分可能になり が成立する。
すなわち、 となる。(微分と総和が交換可能)
今日はこの証明のために、一様収束などの話をしたいと思います。
一様収束とは?
まず、関数の一様normというものを定義します。
このノルムは、一般的な絶対値と同じ性質を持ちます。(三角不等式など)
この一様normを用いて、一様収束という概念を定義します。
定義 2.
区間 上で定義された関数列 を考える。
このとき、 が 上の関数 に一様収束することを、 により定義する。
ある区間 上の関数列 が 関数 に一様収束するとき、 上の各点 において は に収束します。
(これは直感的にも明らかだと思うので証明は省きます)
この 上の各点 において は に収束、が成り立つとき、 は に各点収束するといいます。一様収束するならば各点収束しますが、逆は一般に成り立ちません。
また、一様収束する連続な関数列の収束先は、また連続になります。
一様収束の性質
色々な性質がありますが、ここでは冒頭の定理の証明に必要なものだけピックアップしました。
定理 2.
区間 :[ ] 上で一様収束する連続関数列 に対して、以下が成り立つ。
\begin{align}
\lim_{n \to \infty} \int_a^b f_n(x) \, dx = \int_a^b \lim_{n \to \infty} f_n(x) \, dx
\end{align}
定理 3.
区間 上で一様収束する連続な導関数列 に対して、 もまた各点収束するとき以下が成り立つ。
\begin{align}
\lim_{n \to \infty} \frac{d}{dx} f_n(x) = \frac{d}{dx} \lim_{n \to \infty} f_n(x)
\end{align}
定理2の証明
とする。仮定より、 もまた連続関数である。
\begin{align}
0 &\leq | \int_a^b f_n(x) \, dx - \int_a^b f(x) \, dx | \\
&= | \int_a^b \left( f_n(x) - f(x) \right) \, dx | \\
&\leq \int_a^b | f_n(x) - f(x) | \, dx \\
&\leq \int_a^b \| f_n - f \| \, dx \\
&= \| f_n - f \| (b - a)
\end{align}
従って、以下を得る。
\begin{align}
0 \leq | \int_a^b f_n(x) \, dx - \int_a^b f(x) \, dx | \leq \| f_n - f \| (b - a)
\end{align}
ここで各辺において とするとはさみうちの原理から以下が従う。
\begin{align}
\lim_{n \to \infty} | \int_a^b f_n(x) \, dx - \int_a^b f(x) \, dx | = 0
\end{align}
よって、定理が示された。
\begin{align}
\lim_{n \to \infty} \int_a^b f_n(x) \, dx = \int_a^b f(x) \, dx
\end{align}
定理3の証明
とする。仮定より、 もまた連続関数である。
に対して、
\begin{align}
\int_{x_0}^x g(t) \, dt &= \int_{x_0}^x \lim_{n \to \infty} f_n'(t) \, dt \\
&= \lim_{n \to \infty} \int_{x_0}^x f_n'(t) \, dt \\
&= \lim_{n \to \infty} \left[ f_n(t) \right]_{x_0}^x \\
&= \lim_{n \to \infty} \left( f_n(x) - f_n(x_0) \right) \\
&= f(x) - f(x_0)
\end{align}
従って、以下を得る。
\begin{align}
f(x) = \int_{x_0}^x g(t) \, dt + f(x_0)
\end{align}
ここで、両辺を を変数として微分する。
\begin{align}
\frac{d}{dx} f(x) &= \frac{d}{dx} \left( \int_{x_0}^x g(t) \, dt + f(x_0) \right) \\
&= g(x) \\
&= \lim_{n \to \infty} f_n'(x)
\end{align}
から、定理が示された。
\begin{align}
\frac{d}{dx} \lim_{n \to \infty} f_n(x) = \lim_{n \to \infty} \frac{d}{dx} f_n(x)
\end{align}
冒頭の定理の証明
上で証明した定理3を使うと、すぐに示すことができます。
定理1の証明
\begin{align}
\frac{d}{dx} S(x) &= \frac{d}{dx} \sum_{n=1}^{\infty} f_n(x) \\
&= \frac{d}{dx} \left( \lim_{n \to \infty} \sum_{k=1}^{n} f_k(x) \right) \\
&= \lim_{n \to \infty} \frac{d}{dx} \sum_{k=1}^{n} f_k(x) \\
&= \lim_{n \to \infty} \sum_{k=1}^{n} f_k'(x) \\
&= \sum_{n=1}^{\infty} f_n'(x)
\end{align}
よって、 が成立。
ただし、2行目から3行目の微分と極限の交換に定理3を用いた。
具体例とか
最後に、項別微分不可能な例を紹介したいと思います。
以下のような関数を考えてみます。
\begin{align}
f(x) = \sum_{n=1}^{\infty} a^n \cos (b^n x)
\end{align}
はそれぞれ正の定数で、 < 、 > 、 > とします。
優級数判定法というのを用いると、この(関数項)級数は一様絶対収束することが分かります。これで各点収束の条件は満たされています。
また、各項は明らかに連続な関数なので、その収束先である は連続であることも分かります。
あとは、 としたとき、 が一様収束するかが重要になります。
実際に計算してみると となります。ここで、 > の仮定から、これの総和は明らかに発散してしまいます。
従って、導関数列の和は一様収束しないので項別微分不可能ということになります。
次回予告とか
夏も真っ盛りで、暑苦しい日々が続いていますね。私も毎日溶けそうになっています。
まあ実際はほとんど家の中でゲームしてるんですけど……。
次回は、ちょっと計算機科学よりの内容か、自己同形数の話を書いてみるか、どっちかかなあという気分です。全然予定は立ててないので確定ではないです。
一様収束の話とか、自分も最近初めて学んだのですが、他の数学を学ぶ人の役に立ったらいいなと思います。というわけで、お疲れさまでした。