微分方程式の美味しい炊き方、そして黄金比を食べることによるその効果。
お久しぶりです。今日は数学の話をします。
今回は、この微分方程式を解いていきたいと思います。
\begin{align}
f'(x) = f^{-1}(x)
\end{align}
どうでしょう、ぱっとすぐに解が思いつきますか?
一体どんな関数がこの方程式の解なのでしょうか。
タイトルでネタバレしてないか?
観察 1.
まずは簡単なものから考えてみましょう。
最初にこれを解いてみます。
\begin{align}
f'(x) = f(x)
\end{align}
これはすぐに解ける人も多いことでしょう。
何回微分しても変わらない、これは、指数関数の特徴ですね。
上の微分方程式の解は、 です。
また、 に依存しない定数をかけておいてあげても微分には影響しないので、もっと一般的に、 ( は定数)が解となります。
ちょっと天の邪鬼な人は、 も解であることに気がついているでしょう。ただ、自明な解はあまり面白くないので、今日はこれは無しにしておきます。以下も同様です。
ここで、 としたときの逆関数 についても見ておきます。
式変形してあげると、 です。
これはどうも、最初の微分方程式を満たしそうにありません。
観察 2.
さて次はこれを見てみます。
\begin{align}
f''(x) = - f(x)
\end{align}
2回微分すると、自身の符号を反転したものに等しい関数を探せ、ということです。
これも、分かる人にはすぐ解かれてしまうでしょう。
例えば、 としてあげれば解の1つになります。また、別の人は としたかもしれません。
これもまた一般化してあげると、 ( は定数)という形(三角関数の線形結合)の関数は全て解になります。
さて、また逆関数についても考えておきたいですが……線形結合した形を変形していくのは少し面倒です。
とおいてあげれば、 ですから、三角関数を合成してあげて、 のような形になるでしょう。
これを について解いてあげれば、 でしょうか。
あまり綺麗じゃない気がしますが、とりあえず逆三角関数であることだけ分かれば十分です。三角関数と逆三角関数は、名前こそ似ていても違う性質の関数であることに注意しておきます。
少なくとも、これも最初の微分方程式の解にはならなそうです。
観察から分かること
2つほど例を上げてみましたが、何か気づくことはありましたでしょうか。私は気が付きませんでした。
ある関数 が を満たす時、どんな条件が必要でしょうか。
それは、 と が共に同じ性質、種類であることです。
数学らしからぬふわっとした言葉ですが……。
つまりは、例えば が指数関数ならば同時に も指数関数でなければならなくて、 が三角関数ならば同時に も三角関数でなければならないわけです。
しかしながら、この2つの関数についてはこれは有り得ないということを上で述べました。指数関数の逆関数は対数関数になってしまいますし、三角関数の逆関数は逆三角関数です。
では、これが成り立つような関数にはどんなものがあるでしょうか?
私たちは、どうやら最も簡単な例を忘れているようです。
多項式関数
ここで、多項式関数について考えてみます。多項式と言いつつも、ここでは1項のみからなる関数を考えましょう。
( は定数、)とおきます。指数は整数に限りません。
この関数の導関数は、明らかに です。
逆関数はどうでしょうか?
少し計算すれば、 となることが分かります。
そしてこの2つは、実は上であげた解となる条件を満たしています!
どちらも多項式関数の形を保っているのがお分かりでしょうか。
計算のために、少し式を整理します。
\begin{align}
f'(x) &= (rA) x^{r-1} \\
f^{-1}(x) &= A^{-1/r} x^{1/r}
\end{align}
これでもう明らかです!
あとは係数部分、指数部分について の連立方程式を解いてあげましょう。
指数に着目してあげれば、
\begin{align}
r-1 = \frac{1}{r}
\end{align}
という式が出てきます。
これを整理してあげれば、
\begin{align}
r^2 - r - 1 = 0
\end{align}
です。おや、いやに見覚えがありませんか?
解の公式などでこれを解けば、
\begin{align}
r = \frac{1 \pm \sqrt{5}}{2}
\end{align}
となりました。
\begin{align}
\phi = \frac{1 + \sqrt{5}}{2} \quad , \quad \bar{\phi} = \frac{1 - \sqrt{5}}{2}
\end{align}
あとはこれを使って係数部分についても方程式を解いてあげましょう。
\begin{align}
\phi A = A^{-1 / \phi}
\end{align}
式を整理します。
\begin{align}
A^{1 + 1 / \phi} = \frac{1}{\phi}
\end{align}
ここで黄金比の性質 を使うと、
\begin{align}
A^{\phi} = \frac{1}{\phi}
\end{align}
こうです!後はもう簡単です。
\begin{align}
A = \sqrt[\phi]{\phi^{-1}}
\end{align}
これで微分方程式を解くことができました!
まとめ
今日はこんな微分方程式を扱いました。
\begin{align}
f'(x) = f^{-1}(x)
\end{align}
ここで解を多項式関数と仮定してあげると、解(の1つ?)である以下の関数が出てきました。
\begin{align}
f(x) = \sqrt[\phi]{\phi^{-1}} x^{\phi}
\end{align}
自分もこの微分方程式を解いていて「まさか黄金比が出てくるとは……」という感じでした。
微分方程式の解き方的には、他の解の存在とかが分からないので良くないのかもしれませんが、ともかく解の一例を与えることができました。
この微分方程式の解って一意なのでしょうか?微分方程式の解の一意性等について詳しい方がいたら、情報をお待ちしています。
以上、お疲れさまでした。
参考
A very interesting differential equation.