x^2 = 2^x ~ ランベルトのW関数と共に
お久しぶりです。久しぶりに数学の話でもしようかなと思います。
\begin{align}
x^2 = 2^x \quad (x \in \mathbb{R})
\end{align}
今回はこの方程式について、取り扱います。
突然ですがみなさん、この方程式解けますか?
……「甘く見てもらっちゃ困る、2と4だろ?」ときっと多くの人が感じているでしょう。もちろん、その2つも解になりますね。代入してみれば自明です。
ここで、ちょっとグラフを観察してみることにしまよう。
上の方程式は、2つの関数 と の交点を求めることと同値なので、とりあえずグラフを描いてみます。
うーん、確かに のところでしっかりグラフが交わっていますね。
「なんでそんな中途半端な画像の切り抜き方なんだ」、って? 気になります?しょうがないですね~。
真の全体像は、こちら。
さっきと何が違うのって、……うん?
な、なんかあった!!!
……という感じで、実は上の方程式には、負の実数解がもう1つ存在するのです。
この値は、一体どんな数なのか? 今回はこれを探っていきたいと思います。
方程式を解くだけの簡単なお仕事
あんまり簡単じゃない。
とりあえず、元の式を変形していってみましょう。
\begin{align}
x^2 = 2^x
\end{align}
元の方程式はこれでした。とりあえず、指数絡んでるので両辺自然対数を取りましょう。「2を底にしたほうがいいんじゃない?」とかあるかもしれませんが、後でその理由は分かります。
\begin{align}
2 \log |x| = x \log 2
\end{align}
対数取っただけですね。ここで、ちょっと式の整理をします。
\begin{align}
x^{-1} \log |x| = \frac{1}{2} \log 2
\end{align}
さて、一見してここから について解くのは果たして可能なのか?と思えます。
ここで本日の強力な武器の登場です。それが、ランベルトのW関数です。
\begin{align}
z = W(z) e^{W(z)}
\end{align}
上のような式を満たす関数 がランベルトのW関数です、といってもいまいちしっくりこないと思います。
この関数は、関数 の逆関数 となっています。
つまり、 が成り立つということです。これだけ分かれば十分です。
これを使って、さらに式変形していきます。
絶対値が式の中にあるので、場合分けしましょう( のときは明らかに解にならないので除外です)。
まず が正の場合。
\begin{align}
x^{-1} \log x = \log \sqrt{2}
\end{align}
普通にそのまま絶対値を外しました。あと は対数の中に入れてしまいます。
さらに、W関数が使える形に持っていきます。
\begin{align}
\log x \, e^{- \log x} = \log \sqrt{2}
\end{align}
両辺-1倍してあげれば、
\begin{align}
- \log x \, e^{- \log x} = - \log \sqrt{2}
\end{align}
になって、左辺が の形になりました。
ここで両辺にW関数を使います。
\begin{align}
W(- \log x \, e^{- \log x}) &= W(- \log \sqrt{2}) \\
- \log x &= W(- \log \sqrt{2})
\end{align}
したがって、 について解くと、
\begin{align}
x = e^{-W(- \log \sqrt{2})}
\end{align}
となります。
さて、 は正という仮定だったので、これは2と4に一致するはずですが……1個しか解が無いですね?
実は、このランベルトのW関数は多価関数、という奴でちょっと厄介な性質があるのです。ざっくり言うと、同じ入力値から出力の値が複数出てきてしまいます。
詳しい話をすると、この関数は開区間 上で二価となります。上で出てきた という値はギリギリこの中に収まっていて*1、従って2と4という2つの値を取ることになるのですね。
これと同様に、 が負の場合の解も求めましょう。
流れとしてはほぼ同じです。W関数が使えるように変形します。
\begin{align}
x^{-1} \log (-x) = \log \sqrt{2}
\end{align}
ちょっとトリッキーに、以下のようにします。
\begin{align}
(-x)^{-1} \log (-x) = - \log \sqrt{2}
\end{align}
あとはさっきと同じです。
\begin{align}
- \log (-x) \, e^{- \log (-x)} = \log \sqrt{2}
\end{align}
符号をお間違えなきよう。
\begin{align}
W(- \log (-x) \, e^{- \log (-x)}) &= W(\log \sqrt{2}) \\
- \log (-x) &= W(\log \sqrt{2})
\end{align}
ゴールが見えましたね。
\begin{align}
x = -e^{-W(\log \sqrt{2})}
\end{align}
eの前にマイナス符号が付いてるので、しっかり負の値であることがわかります。
さてこの具体的な値を求めたいのですが、実は残念ながらこの値は2や4のように綺麗にはなりません。しかも超越数になります。
\begin{align}
x = -e^{-W(\log \sqrt{2})} = -0.766664695962123 \dots
\end{align}
ちなみにこの範囲ではW関数は一価なので、負の解はこれだけです。
\begin{align}
(-0.766664695962123 \dots)^2 = 2^{-0.766664695962123 \dots}
\end{align}
以上、明日から使える豆知識でした。