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日々の数学やプログラミングに関係する話。

ABC予想とFermatの最終定理

この記事は、「日曜数学 Advent Calendar 2019」13日目の記事です。

adventar.org

 

「数学の問題は、足し算と掛け算が絡むと途端に難解になる。」

 

日曜数学のアドベントカレンダーには参加しようと思ってみたものの、さて何を書こうかと思っていたのですが、本記事ではタイトルの通りABC予想Fermatの最終定理のちょっとした相関の話を書こうと思います。

(他にはj-function j(\tau) の値が立方数になるときの条件の証明とかも考えたのですが、これは結構長くなりそうだったのでまた別の機会に記事にしたいですね。*1

話のレベルとしては頑張れば中学生くらいでも十分に理解できる感じのものなので、数学小話的な風に読んでいただけると良いと思います。

そもそもABC予想とFermatの最終定理って何だっけ

ABC予想、と言うとあまり馴染みがない人もいるかと思います。Fermatの最終定理も名前こそ有名ですが、今一度それぞれの内容の解説をしましょう。

Fermatの最終定理とは

フェルマーの最終定理 - Wikipedia

Fermatの最終定理とは、自然数 n \geq 3 に対して以下のような関係式の成り立つ3つの自然数の組 (x, y, z) は存在しない、という主張です。

\begin{align}
x^n + y^n = z^n
\end{align}

主張自体はとても単純な問題ですが、Fermatによって提起された後に数学者たちを300年以上の長きに渡って悩ませ続ける問題となりました。

本筋では無いですが、この定理の証明に主に用いられるのは、因数分解の発想です。
ただし因数分解といっても、中学高校でよくやるような(有理)整数環 \mathbb{Z} の範囲での因数分解はありません。x^n-y^n因数分解は高校範囲ですが、+バージョンはやらなかったと思います。

というのも、+バージョンになると因数分解に特殊な工夫が必要になるためです。
\mathbb{Z} の代わりに、代数体*2(特に円分体)という少し変わった範囲で因数分解すると、一部の n では素因数分解の一意性のようなものが成立し、証明を行うことができます。

ここで、「一部の」n と表現したのは、ほとんどの整数の場合でこのままだとうまくいかない、ということなのですが……この話を続けるとかなり長くなってしまいますから、残りは各自で調べていただくことにさせていただきます。(イデアルやら、楕円曲線やら、難しいです)

まあともかく、数学者を悩ませた問題であり続け、同時に数学の発展に寄与してきた問題でもあるのです。

ABC予想とは

一方のABC予想とは、数論における1つの予想です。予想というからには、まだ解かれていないということです。

 

2020/04/03追記:
望月教授による論文が正しいと認められ、ABC予想が正しいことが示されました!!!!!

 

ABC予想 - Wikipedia

ABC予想の主張について、解説します。

まず、任意の正整数 n に対して、相異なる素因数の積を n の根基(radical)と呼ぶことにし、これを \operatorname{rad}(n) と書きます。
以下に例を示します。

\begin{align}
\operatorname{rad}(16) &= \operatorname{rad}(2^4) = \operatorname{rad}(2) = 2, \\
\operatorname{rad}(17) &= 17, \\
\operatorname{rad}(18) &= \operatorname{rad}(2 \cdot 3^2) = 2 \cdot 3 = 6, \\
\operatorname{rad}(1000000) &= \operatorname{rad}(2^6 \cdot 5^6) = 2 \cdot 5 = 10.
\end{align}

要は、素因数分解した結果の指数部分を全部無視したものをかけ合わせればいいです。

最後の例のように、大きな数の根基を考えても必ずしも大きい値になるとは限りません。

 

さて、正整数 a,b,c が、互いに素であって a+b=c を満たすならば、ほとんどの場合c < \operatorname{rad}(abc) が成り立ちます。ABC予想が指摘するのは、この「ほとんどの場合」に属さない、例外の方です。

ABC conjecture. 任意の正の実数 \varepsilon に対し、互いに素な正整数の組 (a,b,c) であって、a+b=c を満たしかつ以下を満たすようなものは高々有限個しか存在しない。

\begin{align}
c > \operatorname{rad}(abc)^{1+\varepsilon}
\end{align}

なぜ累乗するのかと言うと、単に \varepsilon = 0 である場合を考えると成立する正整数の組が無限個存在するからです。

この予想にはいくつか同値な言い換えがあります。

ABC conjecture II. 任意の正の実数 \varepsilon に対し、ある定数 K_{\varepsilon} が存在して、全ての互いに素な正整数の組 (a,b,c)a+b=c であるようなものに対して以下が成り立つ。

\begin{align}
c < K_{\varepsilon} \cdot \operatorname{rad}(abc)^{1+\varepsilon}
\end{align}

こちらは最初に上げた書き方と少し視点が違って、根基を 1+\varepsilon 乗したものを何倍かしてあげれば反例は無くなるよ、という主張です(何倍するかの値 K_{\varepsilon}\varepsilon に依った定数です)。

 

3つ目の言い換えには、3つ組 (a,b,c)質(quality)q(a,b,c) という概念が含まれます。これは以下のように定義されるものです。

\begin{align}
q(a,b,c) = \frac{\log(c)}{\log(\operatorname{rad}(abc))}
\end{align}

数学に慣れている人ならば、少し考えると q(a,b,c)1 の大小を比較すればABC予想に結びつくことが分かるかもしれません。
これを用いてABC予想は以下のように同値な命題へ書き換えることができます。

ABC conjecture III. 任意の正の実数 \varepsilon に対し、互いに素な正整数の組 (a,b,c) であって、a+b=c を満たしかつ q(a,b,c) > 1+\varepsilon を満たすようなものは高々有限個しか存在しない。

 

ちなみに、上でABC予想はまだ解かれていない、と書きました。実際まだ完璧な証明が与えられていないため正しいのですが、一方で多くの数学者がABC予想を証明しようと試みています。
その試みの中でも特に有名なのが、京都大学数理解析研究所望月教授による論文でしょう。彼は論文の中で自らが築いた宇宙際Teichmuller(IUT)理論と呼ばれる理論を駆使して、ABC予想の証明を試みています。しかしながらその内容はとても難解で、時折「未来(異世界)から来た論文」とも称されます。
ちょうど今年、加藤文元先生がIUT理論に関する、『宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃』という本を出版なさいました。内容は易しく書かれているそうなので、興味がある方はぜひ読んでみるといいかもしれません。

これもまた余談ですが、IUT理論によってABC予想を示す過程でRiemannゼータ関数との関連も見つかったと言われたりもしています。

この2つの関係?

さて、ここまでFermatの最終定理とABC予想の概略を解説してきました。

ここからが、今回の本題になります。

ABC予想Wikipediaを読むと、次のようなことが書いてあります(要約)。

(Effective版)ABC予想が真であるとき、n \geq 6 のFermatの最終定理はこれに従い直ちに示される。

なんと、ABC予想からFermatの最終定理は示せるのですね!

これを初めて知ったときは「マジか!!??」となりました。

というわけで、以降は(強い)ABC予想の仮定の下Fermatの最終定理を示したいと思います。

証明

証明に用いる道具は、上で紹介したABC予想の同値な書き換えのうち、3つめです。

全ての質の集合を考えたとき、その上極限(lim sup)が1となる、というのがABC予想の主張です。ここで、少し弱い主張としてその上界が2であるとします。(記事下部に訂正有り)

すなわち、全ての互いに素な正整数の組 (a,b,c)a+b=c であるものに対して、以下を仮定します。(強いABC予想

\begin{align}
c < \operatorname{rad}(abc)^2
\end{align}

 

ある互いに素な正整数の組 (x,y,z) が存在して、自然数 n \geq 3 に対し x^n+y^n=z^n を満たしているとします。仮定より、

\begin{align}
z^n < \operatorname{rad}(x^n y^n z^n)^2
\end{align}

一般に、整数 k に対して \operatorname{rad}(k^n) = \operatorname{rad}(k) \leq k となるため、

\begin{align}
z^n < \operatorname{rad}(x^n y^n z^n)^2 \leq (xyz)^2 < (z^3)^2 = z^6
\end{align}

したがって、以下を得ます。

\begin{align}
z^n < z^6
\end{align}

仮定より z > 1 なので、3 \leq n < 6 が分かりました。
従って、n \geq 6 の場合のFermatの最終定理に解が存在しないことが言えます。

残りは n=3,4,5 の場合ですが、それぞれの場合についてFermat、Eulerらが個別に証明を与えているため、以上でFermatの最終定理は解決となります。

 

とっても簡潔ですね!

ABC予想は、これ以外にも多くの結果を含んでいます。詳しくは上に載せたWikipedia等を参照していただくといいと思います。

今回は、数論における2つの大きな命題を取り扱いました。一見違う毛色に見える問題が絡み合っているのは面白いですね!他にも、これ面白い、というのがあったらぜひコメント等で教えていただけると嬉しいです。

それでは、良いお年を!

証明の訂正

Twitterにてせきゅーんさんに誤りを指摘していただいたので、仮定の部分を訂正します。

https://twitter.com/integers_blog/status/1205446579412328448

証明を行うためには、abc conjecture IIの言い方でいうと \varepsilon = 1 のとき K_{\varepsilon} = 1 という条件が必要なようです。ここではこれを強いABC予想と呼ぶことにします(高々有限個の例外というのが0個である必要があるため)。

*1:『Primes of the form x^2 + ny^2』という本に証明があるらしいです。

*2:有理数体になんらかの代数的数を添加したもの

ラマヌジャンの円周率公式を証明する #5

第五回です。お久しぶりです。

更新滞りすぎ感があったのでちょっとだけ書いておきます。

3. 等価(equivalent)な格子とKleinの絶対不変量 J

この章では、互いに回転・拡大縮小の関係にある等価(equivalent)な格子について取り扱う。等価な格子は、等しいKleinの絶対不変量 J の値を持つ。

定義 3.1.

2つの格子 L, L'等価(equivalent)であるとは、一方の格子がもう一方の格子を回転あるいは拡大・縮小することで得られることである。すなわち、ある a \in \mathbb{C} が存在して、L' = a \cdot L となることである。

注意 3.2.

任意の格子 L の楕円関数 f(z) から、格子 L' = a \cdot L の楕円関数 g(z) = f(\frac{z}{a}) が得られ、逆もまた真である。これが、LL' を等価と呼ぶ所以である。

命題 3.3.

それぞれの格子 L = \mathbb{Z} \omega_1 + \mathbb{Z} \omega_2 に対して、等価な格子 L_{\tau} = \mathbb{Z} + \mathbb{Z} \tau が存在する。ただし、\tau は上半平面 \mathbb{H} 上の複素数である。(i.e. \operatorname{Im}(\tau) > 0

証明

a = \frac{1}{\omega_1} とおくと、L' = a \cdot L=\mathbb{Z}+\mathbb{Z} \cdot \frac{\omega_{2}}{\omega_{1}} を得る。\frac{\omega_{2}}{\omega_{1}} の虚部が正ならば、これを \tau と置けばよい。\frac{\omega_{2}}{\omega_{1}} の虚部が負ならば、\tau = - \frac{\omega_{2}}{\omega_{1}} とすればよい(これは基本周期が異なるのみの等しい格子である)。\operatorname{Im}(\frac{\omega_{2}}{\omega_{1}}) = 0 となる場合はありえない。なぜならば、基本周期の比が実数ならば L は格子になりえないからである(定義1.1参照)。

定義 3.4.

\tau_1 \in \mathbb{H} と \tau_2 \in \mathbb{H} が等価であるとは、格子 L_{\tau_1} と L_{\tau_2} が等価であることである。例えば、\tau と \tau + 1 は等価となる。それだけでなく、\tau と - \frac{1}{\tau} も等価である。

定義 3.5.

ある格子 L \subset C があるとき、g_2(L) と g_3(L) の定義を用いて、判別式 \Delta とKleinの絶対不変量 J を定義する。

\begin{align}
\Delta(L) &:= g_2^3(L) - 27 g_3^2(L) \\
J(L) &:= \frac{g_2^3(L)}{g_2^3(L) - 27 g_3^2(L)}
\end{align}

注意 3.6.

L_{\tau} = \mathbb{Z} + \mathbb{Z} \tau の形の格子があったとき、以降 g_2(L_{\tau}) を g_2(\tau) のように記述する。同様に、g_3(\tau), G_k(\tau), \Delta(\tau), J(\tau) と記述する。

ラマヌジャンの円周率公式を証明する #4

第四回。今回から第二章ですが、原論文では2ページしかないところなのでササッとやります。

mikan-alpha.hatenablog.com

 

注意:これまで \omega のことを(基本)単位と書いてましたが、どうやら周期のほうが良さそうなので変更します。

2. 準周期(quasiperiods)と積分による表示

この章では、Weierstraßの\zeta-関数を用いて格子の準周期を定義する。

また、楕円積分を用いて周期と準周期の別の表示を与える。

これに、命題1.20の \wp微分方程式を用いる。

命題 2.1.

Weierstraßの\zeta-関数は二重周期を持たないが、次の準周期と呼ばれる値は、 z によらない(z \notin L であるならば)。

\begin{align} \eta(\omega; L) := \zeta(z + \omega; L) - \zeta(z; L) \end{align}
証明

右辺を R(z) := \zeta(z + \omega; L) - \zeta(z; L) と置き、これを z微分すると、定義1.12より R'(z) = - \wp(z + \omega; L) - (- \wp(z; L)) を得る。

命題1.15よりこれは0となるから、したがって R(z)z に関して定数である。

この定数の値は格子 L\omega の選び方のみに依っている。

それゆえに、これを \eta(\omega; L) と書けるのである。

定義 2.2.

次の値 \eta_1(L) と \eta_2(L) は、格子 L = \mathbb{Z} \omega_1 + \mathbb{Z} \omega_2基本準周期(basic quasiperiods)と呼ばれる。

\begin{align} \eta_k(L) := \zeta(z + \omega_k; L) - \zeta(z; L) \end{align}

注意 2.3.

省略

命題 2.4. 

格子 L = \mathbb{Z} \omega_1 + \mathbb{Z} \omega_2 の基本周期と基本準周期に対して、以下が成り立つ。

\begin{align} \eta_1 \omega_2 - \eta_2 \omega_1 = 2 \pi i \end{align}
証明

(留数定理より。よく分かってないので省略)

定義 2.5.

g_2, g_3複素数とする。このとき、

\begin{align}
X(g_2, g_3) := \left\{ (x, y) \in \mathbb{C}^2 \, | \, y^2 = 4 x^3 - g_2 x - g_3 \right\}
\end{align}

は、平面アフィン代数曲線の一つである。

命題 2.6.

写像 \Phi を以下のように定義する。

\begin{align}
\Phi : \mathbb{C} - L \quad &\longrightarrow \quad X(g_2(L), g_3(L)) \subset \mathbb{C}^2 \\
z \quad &\longmapsto \quad (\wp(z; L), \wp^{\prime}(z; L))
\end{align}

これは well-defined であり微分可能かつ二重周期性を持つ。

証明

(省略)

定義 2.7.

L = \mathbb{Z} \omega_1 + \mathbb{Z} \omega_2 を基本周期を \omega_1, \omega_2 とする格子とする。ここで経路 \beta_1, \beta_2 を以下のように定義する。

\begin{align}
\beta_1(t) := \frac{1}{4} \cdot \omega_2 + t \cdot \omega_1 \qquad \text{for} \quad 0 \leq t \leq 1 \\
\beta_2(t) := \frac{1}{4} \cdot \omega_1 + t \cdot \omega_2 \qquad \text{for} \quad 0 \leq t \leq 1
\end{align}

注意 2.8.

経路上には \wp と \wp^{\prime} の極、および \wp^{\prime} の零点は存在しない。

命題 2.9.

L = \mathbb{Z} \omega_1 + \mathbb{Z} \omega_2 とおく。そして経路 \beta_k を用いて2つの新たな経路 \alpha_k := (\wp(\beta_k), \wp^{\prime}(\beta_k)) を定義する。

これらは平面アフィン代数曲線 X(g_2(L), g_3(L)) 上の閉じた経路である。

ここで、格子の基本周期と基本準周期は、次の楕円積分による表示を満たす。

\begin{align} \omega_k = \oint_{\alpha_k} \frac{dx}{y} \qquad \text{and} \qquad \eta_k(L) = - \oint_{\alpha_k} \frac{x \, dx}{y} \end{align}
証明

経路 \alpha_k が X(g_2(L), g_3(L)) 上の経路であることは、命題1.20の微分方程式から保証される。\beta_k(1) = \beta_k(0) + \omega_k より、\wp(\beta_k(0)) = \wp(\beta_k(1)) であり、\wp^{\prime} に対しても同様である。したがって、\alpha_k(0) = \alpha_k(1) が成り立ち経路 \alpha_k は閉じている。

\frac{dx}{dz} = \wp^{\prime}(z) となるから、したがって

\begin{align}
\oint_{\alpha_k} \frac{dx}{y} = \oint_{\beta_k} \frac{\wp^{\prime}(z) dz}{\wp^{\prime}(z)} = \oint_{\beta_k} dz = \beta_k(1) - \beta_k(0) = \omega_k
\end{align}

また、

\begin{align} - \oint_{\alpha_k} \frac{x \, dx}{y} = - \oint_{\beta_k} \frac{\wp(z) \wp^{\prime}(z) dz}{\wp^{\prime}(z)} = \oint_{\beta_k} - \wp(z) dz = \oint_{\beta_k} \zeta'(z) = \zeta(z + \omega_k; L) - \zeta(z; L) = \eta_k(L) \end{align}

次回予告

第二章はこれで終わりで、次回から第三章です。

感覚としては、結構進んできた感じしますね。

次回から、円周率公式のパーツっぽいものが現れてきます。

頑張って証明追いたい。

ラマヌジャンの円周率公式を証明する #3

第三回です。ところどころ証明が分からなくなってきたのでサポートしてくれる人がほしい。

よく分かってない証明:極と零点に関わる証明(Liouvilleの定理2、3まわり)、命題1.20、1.21

あと今更ですが、この日本語訳計画が終わったら別でお気持ちが分かるような解説記事を書きたいと思います。

命題 1.14.

\wp(z ; L) は偶関数であり、また \wp^{\prime}(z ; L) は奇関数である。すなわち、

\begin{align}
\wp(-z ; L)=\wp(z ; L) \quad \text { and } \quad \wp^{\prime}(-z ; L)=-\wp^{\prime}(z ; L)
\end{align}

証明

\omega が格子の全ての点を渡るならば、- \omega も同様である。

\begin{align}
\begin{aligned} \wp(-z ; L) &=\frac{1}{(-z)^{2}}+\sum_{\omega \in L}\left(\frac{1}{(-z-\omega)^{2}}-\frac{1}{\omega^{2}}\right) \\ &=\frac{1}{z^{2}}+\sum_{-\omega \in L \atop-\omega \neq 0}\left(\frac{1}{(z-(-\omega))^{2}}-\frac{1}{(-\omega)^{2}}\right)=\wp(z ; L) \end{aligned}
\end{align}

また \wp^{\prime}(z ; L) に対して以下が成り立つ。

\begin{align}
\wp^{\prime}(-z ; L)=\sum_{\omega \in L} \frac{-2}{(-z-\omega)^{3}}=-\sum_{-\omega \in L} \frac{-2}{(z-(-\omega))^{3}}=-\wp^{\prime}(z ; L)
\end{align}

命題 1.15.

Weierstraßの\wp-関数は二重周期性を持つ。すなわち、全ての \omega \in L に対して \wp(z+\omega ; L)=\wp(z ; L)

証明

\wp^{\prime}(z ; L) は二重周期性をもつ。なぜならば、総和は全ての格子の点を渡り、かつその他の項を持たないためである*1
したがって、\wp^{\prime}(z+\omega)-\wp^{\prime}(z)=0 を得るため \wp(z+\omega)-\wp(z)=\mathrm{const} である。

\omega が格子の基本単位であるとき、\frac{\omega}{2} \notin L である。

命題1.14を用いて次のように定数の値が得られる。

\begin{align}
\wp\left(-\frac{\omega}{2}+\omega\right)-\wp\left(-\frac{\omega}{2}\right)=\wp\left(\frac{\omega}{2}\right)-\wp\left(-\frac{\omega}{2}\right)=0
\end{align}

これにより \wp(z+\omega)=\wp(z) が全ての格子 L の基本単位について成り立ち、またこれを繰り返し用いることで 全ての格子の点について成り立つことがわかる。

命題 1.16.

\wp^{\prime} の零点は、ちょうど \frac{\omega}{2} の点である。ただし\omega \in L かつ \frac{\omega}{2} \notin L である。

L=\mathbb{Z} \omega_{1}+\mathbb{Z} \omega_{2} であるならば、次の3つの零点を得る。

\begin{align}
\wp^{\prime}\left(\frac{\omega_{1}}{2}\right)=\wp^{\prime}\left(\frac{\omega_{2}}{2}\right)=\wp^{\prime}\left(\frac{\omega_{1}+\omega_{2}}{2}\right)=0
\end{align}

証明

\frac{\omega_k}{2} \notin L であるような \omega_k \in L を選ぶ。

\omega がすべての格子の点を渡るならば、\omega^{\prime}=\omega+\omega_{k} も同様である。

したがって、

\begin{align}
\begin{aligned} \wp^{\prime}\left(-\frac{\omega_{k}}{2} ; L\right) &=\sum_{\omega \in L} \frac{-2}{\left(-\frac{\omega_{k}}{2}-\omega\right)^{3}}=\sum_{\omega^{\prime} \in L} \frac{-2}{\left(-\frac{\omega_{k}}{2}-\left(\omega^{\prime}-\omega_{k}\right)\right)^{3}} \\ &=\sum_{\omega^{\prime} \in L} \frac{-2}{\left(\frac{\omega_{k}}{2}-\omega^{\prime}\right)^{3}}=\wp^{\prime}\left(\frac{\omega_{k}}{2} ; L\right) \end{aligned}
\end{align}

命題 1.14より、\wp^{\prime} は奇関数であり、かつ仮定より \pm \frac{\omega_{k}}{2} \notin L である。

よって、\wp^{\prime}\left(-\frac{\omega_{k}}{2} ; L\right)=-\wp^{\prime}\left(\frac{\omega_{k}}{2} ; L\right) である。

これにより \wp^{\prime}\left(\frac{\omega_{k}}{2} ; L\right)=0 である。

Liouvilleの定理3から、(法 L の下)\wp^{\prime} はこの他に零点を持たない。

(最後の1行をまだ理解できていない)

定義 1.17.

級数 G_{n}=G_{n}(L):=\sum_{\omega \in L \atop \omega \neq 0} \omega^{-n}重さ n のアイゼンシュタイン級数と呼ばれる。これは 自然数 n \geq 3 に対して絶対収束する。

命題 1.18.

奇数の重さのアイゼンシュタイン級数は、その総和が0となる。

証明

n は奇数であるから、全ての \omega \in L-\{0\} について \omega^{-n}(- \omega)^{-n} = - (\omega^{-n}) は互いに打ち消し合ってしまう。

よって、総和は0となる。

命題 1.19.

Weierstraßの\wp-関数は、以下のような定数項を含まない z=0 周りでのローラン級数展開を満たす。

\begin{align}
\wp(z ; L)=\frac{1}{z^{2}}+\sum_{n=1}^{\infty}(2 n+1) \cdot G_{2 n+2}(L) \cdot z^{2 n}
\end{align}

証明

まず f(z):=\wp(z ; L)-\frac{1}{z^{2}} について考察する。定義1.12より、f(0) = 0 を得る。よって、注意1.13における \wp^{\prime} の表示を用いて z=0 における f(z)微分は以下のようになる。

\begin{align}
f^{(n)}(z)=(-1)^{n}(n+1) ! \sum_{\omega \in L \atop \omega \neq 0} \frac{1}{(z-\omega)^{n+2}} \quad \text { if } n \geq 1
\end{align}

命題1.18から、z=0 における奇数階微分は消えてしまう。また、偶数階微分は以下のようである。

\begin{align}
f^{(2 n)}(0)=(-1)^{2 n}(2 n+1) ! \sum_{\omega \in L \atop \omega \neq 0} \frac{1}{(-\omega)^{2 n+2}}=(2 n+1) ! \sum_{\omega \in L \atop \omega \neq 0} \frac{1}{\omega^{2 n+2}}=(2 n+1) ! \cdot G_{2 n+2}
\end{align}

変形にアイゼンシュタイン級数の定義を用いた。

したがって、f(z) = \sum_{n=1}^{\infty} \frac{f^{2 n}(0)}{(2 n) !} \cdot z^{2 n}=\sum_{n=1}^{\infty}(2 n+1) G_{2 n+2} \cdot z^{2 n} を示せた*2

命題 1.20.

Weierstraßの\wp-関数は、以下の代数微分方程式を満たす。

\begin{align}
\begin{aligned} \wp^{\prime}(z)^{2} &=4 \wp(z)^{3} - g_{2}\wp(z) - g_{3} \\ \text {with} \quad g_{2} &= g_{2}(L) := 60 G_{4}(L)=60 \sum_{\omega \in L \atop \omega \neq 0} \omega^{-4} \\ \text { and } g_{3} &= g_{3}(L) := 140 G_{6}(L) = 140 \sum_{\omega \in L \atop \omega \neq 0} \omega^{-6} \end{aligned}
\end{align}

証明

1.19で示したローラン級数を用いて、h(z) := \wp^{\prime}(z)^2 - 4 \wp(z)^3 + 60 G_4 \wp(z) が極を持たないことを示す。*3

\begin{align}
\wp(z; L) &= z^{-2} + 3 G_4 z^2 + 5 G_6 z^4 + O(z^6) \\
\Rightarrow \quad \wp(z; L)^2 &= z^{-4} + 6 G_4 + 10 G_6 z^2 + O(z^4) \\
\Rightarrow \quad \wp(z; L)^3 &= \wp(z; L)^2 \cdot \wp(z; L) = z^{-6} + 9 G_4 z^{-2} + 15 G_6 + O(z^2) \\
\text{and} \quad \wp^{\prime}(z; L) &= -2 z^{-3} + 6 G_4 z + 20 G_6 z^3 + O(z^5) \\
\Rightarrow \quad \wp^{\prime}(z; L)^2 &= 4 z^{-6} -24 G_4 z^{-2} - 80 G_6 + O(z^2) \\
\Rightarrow \quad \wp^{\prime}(z; L)^2 - 4 \wp(z; L)^3 &= -60 G_4 z^{-2} - 140 G_6 + O(z^2) \\
\Rightarrow \quad \wp^{\prime}(z; L)^2 - 4 \wp(z; L)^3 &+ 60 G_4 \wp(z; L) = - 140 G_6 + O(z^2)
\end{align}

以上から、h(z)z=0 において極を持たない。

h(z) は定義から、二重周期性を持つ。かつ h(z) はどの格子の点にも極を持たない。

(ここから先?)

命題 1.21.

L=\mathbb{Z} \omega_{1}+\mathbb{Z} \omega_{2} ならば、以下が成り立つ*4

\begin{align}
\wp^{\prime}(z)^{2}=4 \cdot\left(\wp(z)-e_{1}\right) \cdot\left(\wp(z)-e_{2}\right) \cdot\left(\wp(z)-e_{3}\right)
\end{align}

ただし、相異なる(pairwise distinct)定数 e_1,e_2,e_3 は以下のように定める。

\begin{align}
e_{1}:=\wp\left(\frac{\omega_{1}}{2}\right) ; \quad e_{2}:=\wp\left(\frac{\omega_{2}}{2}\right) ; \quad e_{3}:=\wp\left(\frac{\omega_{1}+\omega_{2}}{2}\right)
\end{align}

証明

命題1.16から、\wp^{\prime}\left(\frac{\omega_{1}}{2}\right)=0 がわかる。f(z):=\wp(z)-e_{1} を定めれば、f\left(\frac{\omega_{1}}{2}\right)=0 かつ f'\left(\frac{\omega_{1}}{2}\right)=0 を得る。したがって、f\frac{\omega_{1}}{2} に重解をもつ。

そしてLiouvilleの定理3(命題1.8)から、\wp(z)-e_{1} は他に零点を持たない。

したがって、e_{1 ; 2 ; 3} は相異なる定数(pairwise distinct)である(日本語訳合っているか不明?)。

命題1.20と命題1.16から、P(X):=4 X^{3}-g_{2} X-g_{3} は相異なる3つの零点 e_1,e_2,e_3 を持つ。したがって P(X)=4\left(X-e_{1}\right)\left(X-e_{2}\right)\left(X-e_{3}\right) のように因数分解される。

X=\wp(z) とし命題1.20と用いることで、命題を証明できる。

次回予告

楕円曲線が形だけ登場しました。あと証明が分からなくなってきた。詰み。

次回から第二章です。

果たして完走できるのか……?

*1:注意1.13参照

*2:マクローリン展開の定義を用いた。

*3:無限に続く級数の二乗も、下のように順に掛けていけば計算ができます。

*4:零点を用いた因数分解

ラマヌジャンの円周率公式を証明する #2

昨日の続きです。
以下常体になります。

 

mikan-alpha.hatenablog.com

 

1. 楕円関数(Elliptic Functions)

この章では、Weierstraßの楕円関数についての用語と命題を取り扱う。

定義 1.1.

\mathbb{R} 上線形独立な複素数の組 (\omega_1, \omega_2) について、

\begin{align}
L = \mathbb{Z} \omega_{1}+\mathbb{Z} \omega_{2}=\left\{m \omega_{1}+n \omega_{2} \, | \, m, n \in \mathbb{Z}\right\} \subset \mathbb{C}
\end{align}

を、格子(Lattice)と呼ぶ。

\omega_1 と \omega_2 は、格子の基本単位(basic periods)と呼ばれる。

定義 1.2.

楕円関数とは、有理型の関数 f: \mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \cup\{\infty\} であって、以下の性質を持つものである。

\begin{align}
f(z+\omega)=f(z) \quad \text { for all } \omega \in L \text { and } z \in \mathbb{C}
\end{align}

有理型とは、f が真性特異点を持たず、かつ f の極の集合は集積点を持たず*1、かつ f は極を除いて正則であることである。

定義 1.3.

すべての格子 L は、複素数に対して合同の関係をつくる。

z_1 \in \mathbb{C} と z_2 \in \mathbb{C}L の下で合同であるとは、z_1 - z_2 \in L が成立すること(と同値)である。

定義 1.4.

基本領域(fundamental parallelogram)\mathcal{P} とその閉包 \overline{\mathcal{P}} は以下のように定められる。

\begin{align}
\mathcal{P}=\left\{s \omega_{1}+t \omega_{2} \, | \, 0 \leq s, t<1\right\} \quad \text { and } \quad \overline{\mathcal{P}}=\left\{s \omega_{1}+t \omega_{2} \, | \, 0 \leq s, t \leq 1\right\}
\end{align}

\omega_{1} と \omega_2\mathbb{R} 上線形独立であるから、以下が成立する。

全ての z \in \mathbb{C} について、法 L の下 z と合同であるような z' \in \mathcal{P} がただ一つ存在する*2

命題 1.5. Liouvilleの定理

全ての有界な解析関数 \mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} は定数である。

証明

任意の z \in \mathbb{C} に対して、f'(z) = 0 を示せば良い。

Cauchyの積分公式を一度微分することで、任意の正の数 r について以下を得る。

\begin{align}
\left|f^{\prime}(z)\right|=\left|\frac{1}{2 \pi i} \oint_{|\zeta-z|=r} \frac{f(\zeta)}{(\zeta-z)^{2}} d \zeta\right| \leq \frac{1}{2 \pi} \cdot \frac{C}{r^{2}} \cdot 2 \pi r=\frac{C}{r}
\end{align}

ここで、有界であるという仮定 |f(\zeta)| \leq C と、円周の長さを用いた。

途中の式をもう少し書き下すと、

\begin{align}
\left|\frac{1}{2 \pi i} \oint_{|\zeta-z|=r} \frac{f(\zeta)}{(\zeta-z)^{2}} d \zeta\right| \leq \frac{1}{2 \pi } \left| \oint_{|\zeta-z|=r} \frac{C}{(\zeta-z)^{2}} d \zeta\right|
\end{align}

ここで、被積分関数の分母 (\zeta-z)^{2} は、|\zeta-z|^{2} = r^2 に等しいため、元の不等式となる。

上の議論において、r \to \infty とすることで f'(z) = 0 を得る。

したがって、f は定数関数である。

命題 1.6. Liouvilleの定理 1

全ての極を持たない楕円関数は定数である。

証明

全ての基本周期を \omega_1 と \omega_2 とする楕円関数 f は、基本領域 \mathcal{P} 上の全ての値をとる。しかし、その閉包 \overline{\mathcal{P}} は閉じていてかつ有界である。f が極を持たないため、|f| は連続でありかつ \overline{\mathcal{P}} に最大値を持たなければならない。しかし一方で、その周期性から f複素数平面全体で有界となる。命題1.5より、f は定数関数となる。

命題 1.7. Liouvilleの定理 2

全ての楕円関数は、(法 L の下で)高々有限個の極を持ちその留数の和は0である。

証明

楕円関数の任意の極について、等しい(対応する)極が基本領域 \mathcal{P} 上に存在する。楕円関数の極の集合は離散的であるから、基本領域の閉包 \overline{\mathcal{P}} には高々有限個の極が存在する(\overline{\mathcal{P}} はコンパクトである)。

(ここから先はよく理解できてません……)

命題 1.8. Liouvilleの定理 3

全ての定数でない楕円関数 f は、重複度込みで法 L の下同じ数の零点と極を持つ。

証明

(これもいまいち理解できてない気がするので一旦省略します)

定義 1.9.

格子 L のWeierstraßの \sigma-関数は、以下のように定義される。

\begin{align} \sigma(z ; L):=z \cdot \prod_{\omega \in L \atop \omega \neq 0}\left\{\left(1-\frac{z}{\omega}\right) \cdot \exp \left(\frac{z}{\omega}+\frac{1}{2}\left(\frac{z}{\omega}\right)^{2}\right)\right\} \end{align}

この関数の詳しい解析は第4章にて行われる。

注意 1.10.

上記の無限積は、指数関数の因子によって絶対収束する。また、\sigma(z ; L) の零点はちょうど格子 L の点であって、その位数は1である。それにも関わらず、\sigma-関数は二重周期性を持たない

定義 1.11.

格子 L のWeierstraßの \zeta-関数は、\sigma-関数の対数微分として定義される。

\begin{align} \begin{aligned} \zeta(z ; L) :=\frac{d}{d z} \ln \sigma(z ; L)=\frac{d}{d z}(\ln z)+\sum_{\omega \in L} \frac{d}{d z}\left\{\ln \left(1-\frac{z}{\omega}\right)+\frac{z}{\omega}+\frac{1}{2}\left(\frac{z}{\omega}\right)^{2}\right\} \\ =\frac{1}{z}+\sum_{\omega \in L \atop \omega \neq 0}\left(\frac{1}{z-\omega}+\frac{1}{\omega}+\frac{z}{\omega^{2}}\right) \end{aligned} \end{align}

この関数の詳しい解析は第2章にて行われる。

定義 1.12.

Weierstraßの \wp-関数は、\zeta-関数の微分の-1倍である。

\begin{align}
\wp(z ; L):=-\zeta^{\prime}(z ; L)=\frac{1}{z^{2}}+\sum_{\omega \in L \atop \omega \neq 0}\left(\frac{1}{(z-\omega)^{2}}-\frac{1}{\omega^{2}}\right)
\end{align}

注意 1.13.

Weierstraßの \wp-関数の微分は以下のようになる。

\begin{align}
\wp^{\prime}(z ; L)=\sum_{\omega \in L} \frac{-2}{(z-\omega)^{3}}
\end{align}

次回予告?

今回はそこそこキリがいいのでここまでとしますが、第一章はまだまだ続きます。

次回は今回新しく出てきた \wp-関数についてもっと深く扱っていきます。

先は長い……。

*1:おそらく集積特異点が無いと言うことだと思います。

*2:ベクトルの分解です。

ラマヌジャンの円周率公式を証明する #1

 ※この記事は以下のものの続き的なものではありますが、読んでも読まなくても大丈夫です。

 

mikan-alpha.hatenablog.com

 

mikan-alpha.hatenablog.com

 

mikan-alpha.hatenablog.com

 

上の記事を書いてから、もうだいぶ経ってしまいました。

個人的にまたこの話題に触れる機会があり、ちょうどいいと思ったので、お気持ちではなく証明を書きたいと思います。ついにですね。

注意ですが、このシリーズ記事は以下の論文の日本語訳(+個人的な行間埋め)になります。

[1809.00533] A detailed proof of the Chudnovsky formula with means of basic complex analysis -- Ein ausführlicher Beweis der Chudnovsky-Formel mit elementarer Funktionentheorie

英語の数学用語等はもう読めるよ、という方は元の論文の方も参照するとより幸せになれると思います。

 

今回は初回ですので、いつも通りイントロダクションとします。

当然ながら内容はそこそこハードになるかと思いますので、自分のペースでゆっくりどうぞ。

イントロダクション

この節で扱うもの:「これから何を示すのか」、証明に使う関数たち

 

円周率を求めるための公式の1つとして、Chudnovskyの公式というものがあります。

\begin{align}
\frac{1}{\pi}=12 \cdot \sum_{n=0}^{\infty} \frac{(-1)^{n}(6 n) !}{(3 n) !(n !)^{3}} \cdot \frac{13591409+545140134 n}{640320^{3 n+3 / 2}}
\end{align}

この公式は1項計算を進めるごとに10進数でおよそ14桁ずつ円周率の正確な値を求めていくことができます。

このおよそ14という数字は、総和の中身の部分を P(n) とでもおいて \log_{10} \lim_{n \to \infty} P(n+1) / P(n) を計算すれば出てきます。

 

このシリーズの目標は、この公式、加えてより一般化されたものを証明することです。

証明に最低限必要なものは、主に複素解析の知識です。ローラン級数留数定理等を用いますが、余裕があればその都度解説を入れたいと思います。

 

証明の目標となる主定理の前に、それに必要な関数をいくつか定義しておきます。

まず、以前の記事でも登場した正規化アイゼンシュタイン級数(normalized Eisenstein series)です。

\begin{align} E_{2}(\tau) := 1-24 \sum_{n=1}^{\infty} n \frac{q^{n}}{1-q^{n}} \\ E_{4}(\tau) := 1+240 \sum_{n=1}^{\infty} n^{3} \frac{q^{n}}{1-q^{n}} \\ E_{6}(\tau) := 1-504 \sum_{n=1}^{\infty} n^{5} \frac{q^{n}}{1-q^{n}} \end{align}

ここで、q:=e^{2 \pi i \tau} で、\tau の虚部は正とします。

さらに、これらを用いて2つの新たな関数を定義します。

\begin{align} J(\tau):=\frac{E_{4}(\tau)^{3}}{E_{4}(\tau)^{3}-E_{6}(\tau)^{2}} \\ s_{2}(\tau):=\frac{E_{4}(\tau)}{E_{6}(\tau)} \cdot\left(E_{2}(\tau)-\frac{3}{\pi \operatorname{Im}(\tau)}\right) \end{align}

 

そして、これがこれから証明する主定理です。

Main Theorem.

\begin{align} \frac{1}{2 \pi \operatorname{Im}(\tau)} \sqrt{\frac{J(\tau)}{J(\tau)-1}}=\sum_{n=0}^{\infty}\left(\frac{1-s_{2}(\tau)}{6}+n\right) \cdot \frac{(6 n) !}{(3 n) !(n !)^{3}} \cdot \frac{1}{(1728 J(\tau))^{n}} \end{align}

ただし、平方根は主値を取るものとします。

冒頭で述べたChudnovskyの公式は、この等式の特別な場合です。
\tau\tau_{163} = \frac{1+i \sqrt{163}}{2} を代入することにより得られます。

 

次回予告

「え、終わるのはやくね?」と思われそうですが今日は疲れたのでここまでにしておきます。

次回は、楕円関数を扱います。
格子やらワイエルシュトラス\sigma 関数・ \zeta 関数・ \wp 関数やらが登場しますので、tsujimotterさんのブログのこちらの記事がとても参考になるかと思います。

tsujimotter.hatenablog.com

私も次回までに勉強しておきますので、引き続きよろしくお願いいたします。

1/999999999998999999999999

タイトルにある分数の話です。

手元に紙とペンがあって暇な方は自分で割り算してみてください。

 

 

 

0.000000000000000000000001000000000001000000000002 \ldots

こんな風になりましたか?

「これが何なんだ」って人は、もう少し先まで計算してみてください。
120桁くらいやれば、流石に見えてくると思います。

 

 

フィボナッチ数が見えましたか?(よくわからない人は小数点以下を12桁ずつ区切ってください)

この分数、少し前にTwitterで話題になっていたものです。
元ツイートは忘れてしまいました……。

まあとにかく、今回はこの分数にフィボナッチ数が現れることの証明をやりたいと思います。

 

さて、これが話題の分数です。

\begin{align}
\frac{1}{999999999998999999999999} \tag{1}
\end{align}

いかにも文字で一般化できそうな形なので、定数 x=10^{12} を用いて簡略化してみると、

\begin{align}
\frac{1}{x^2 - x - 1} \tag{2}
\end{align}

こんな感じです。

ここでちょっと考えます。知っている式で、これに似たものをどこかで見たような気がします。

そうです。分かる人にはわかる、フィボナッチ数列の母関数です。

 

mikan-alpha.hatenablog.com

 

当ブログでも、以前に母関数を計算したことがありました。
今回も、フィボナッチ数列の定義は同じものを使おうと思うので、母関数は使い回させていただきます。

\begin{align}
F_0 &= 0 \\
F_1 &= 1 \\
F_{n+2} &= F_{n+1} + F_n
\end{align}

フィボナッチ数列の母関数 f(t)

\begin{align}
f(t) = \frac{t}{1 - t - t^2} \tag{3}
\end{align}

では証明です。といっても、すぐ終わります。

(2)の式を母関数の式の形に近づけるため、分母分子に x^{-2} をかけます。

\begin{align}
\frac{x^{-2}}{1 - x^{-1} - x^{-2}} \tag{4}
\end{align}

なんだか指数のところが汚いので新しく y = x^{-1} = 10^{-12} を定義して書き換えましょう。

\begin{align}
\frac{y^2}{1 - y - y^2} \tag{5}
\end{align}

もうほぼ証明終わりみたいなものですね。これは母関数 f(y)y が1つ余分にかかっている形となっています。

\begin{align}
\frac{y^2}{1 - y - y^2} = y \cdot f(y) = F_0 y + F_1 y^2 + F_2 y^3 + \cdots \tag{6}
\end{align}

ここで右の式は元の分数を小数展開したときの形そのものですね!

こういうわけで、もとの分数を展開するとフィボナッチ数が出てくるのでした。

今回は短いですがこれで以上です。お疲れさまでした。